18 いつか必ず「生徒自身が教育というマーケットを創る日」がやってくる。

ビジネスの知見

従来の学校は「プロダクトアウト」

山口周『ニュータイプの時代』(2019年初版、ダイヤモンド社)から、2つ目の知見です。

先に製品ありきでそれを市場に押し出す「プロダクトアウト」でもなく、顧客ニーズに基づいた製品やサービスの企画が先に立つ「マーケットイン」でもない、両者の中間をつかさどるメディアや流通のありようが、プロダクトと顧客ターゲットの双方を必然的に規定する「メディアアウト」ともいうべきパラダイムに縛られていたということです。(P94)

これは20世紀のビジネスの在り方が、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という2大パラダイムから、メディアや流通の枠組みに支配されるようになった、という文脈での説明です。

学校教育は、言うまでもなく「プロダクトアウト」のパラダイムに基づいています。カリキュラムという名の「製品」ありきで、「これは良いカリキュラムだから買ってください」というお達しが下り、ほぼ無条件ですべての学校が受け入れているのが現状です。

では、これが仮に「マーケットイン」のパラダイムに基づいた場合、「マーケット」、つまり「市場」とは、誰のニーズを指しているのでしょうか?

現在は「メディアアウト」の時代

先の「プロダクトアウト」では、「製品」の作り手が文科省(そして学校による行使)で、受け取り手は生徒でした。マーケットインは市場のニーズを研究・分析した作り手が、ニーズに見合った製品を作り出して売ることを指しています。ならば、その場合、ニーズの担い手である生徒が「マーケット」ということになります。

よって「マーケットイン」とは、「生徒自身が望んでいるカリキュラムを学校が研究・分析し、提供する」状態を指すことになるでしょう。

学校に市場原理を持ち込んだ場合、「店の陳列棚には数少ない商品が並べられ、お客は選択の余地なくそれを買って帰る」というのが従来のありかたでした。学校において「マーケットイン」は極めて現実離れしています。現代っ子の多様な嗜好に合わせた品ぞろえを、店側が実現できるわけがありません。

よって、メディアの登場です。

生徒と学校のはざまに位置する教育メディアが両者の媒介となり、社会の動向や生徒の変化を反映させた「製品」を売り込み始めます。いわゆる「教育ビジネス」の市場は少子化傾向の今だからこそ肥大化しています。数少ない子供たちに多額の費用を投入し、勝ち組を狙う保護者のニーズに応えるために、世間の流れに乗り切れていない学校関係者に多少の安心感を与えながら、教育メディアは奔走します。これが山口の言う「メディアアウト」です。

本当の意味での「マーケットイン」がやってくる

しかし、現代のようにここまで価値観が多様化し、従来の価値観に疑義が呈されるようになってくると、話は変わってきます。個人がSNSなどのメディアを持ち、ネットを中心に自由な意思表明が当たり前となっている現在、生徒自体がメディアそのものになりつつあります。

現在、最も発信力が高い世代は、言うまでもなく高校生や大学生世代です。そしてこのことにより、本当の意味での「マーケットイン」が実現しようとしています

市場を司るのは、今や若者です。学校が旧来の価値観を支えられなくなっている現状において、新たな「製品」を求めるのは若者であり、その動きに追随する大人が、マーケットの需要を満たし始めます。

ネット上は、若者の興味関心を最大限に引き出そうとする教育ビジネスであふれかえっています。変化することが前提となった『ライフ・シフト』の時代、目端の利く若者たちは、彼ら1人1人に合った豊かさを求めて、自身に必要なカリキュラムを身につけようとするはずです。

そして、その考えややり方は正しい。限りある、とはいえ想像以上に長く続くことが予想される人生を十分に生ききろうとするには、そのくらいの先見性やしたたかさが必要になってくるでしょう。これは必然です。

さらに時が進めば、若者は自分たちでマーケットを作り、その需要の担い手も引き受けることになるでしょう。彼らはマーケットであり、プロダクトも担う。若者世代だけで自己完結した世界が出来上がります

社会が変わるよりも先に、未来を視野に入れた若者が、自分に必要な「教育」を選び、最終的には「創る」時代がやってくる。

特定のニーズを持ち、メディアを駆使して人生を切り拓く存在。それが未来の生徒です

あなた自身がマーケットを創れ

さて、私たち大人にできることは、何でしょうか?

・マーケットのニーズに見合った「製品」を用意する?
・マーケットを無視したままプロダクトを提供し続ける?
・あと数年、事態が急展開しないことを祈りながらやり過ごす?

いえ、どの選択肢も間違っています。

正解は、私たち自身でマーケットを創ること

あなたが大切にしている価値観や教育観に基づいて、生徒を伸ばすためのオリジナリティあふれる「製品」を創り出し、折に触れてテストをしてみる。つまり生徒に提供してみる。

その営みが、あなたの教師としての質を高め、あなたのセカンドキャリア構築の基礎になります。

私たち教師1人1人がコンテンツを創る時代が、近づきつつあります。

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